環境放射能濃度や放射線等の値に大きな影響があった過去の出来事について説明しています。
大気圏内核実験(1940年中ごろ~1980年)
アメリカ、ソ連、中国等による大気圏内(主として北半球の成層圏)での核爆発実験をいいます。大気圏内核実験は、1940年代中ごろから開始され、1950年代後半から60年代前半にかけて盛んに行われました。
これらの核実験で生成した放射性物質は、北半球全体に拡散し、雨水とともに地表に降り続けました。これらを放射性降下物(フォールアウト)といいます。1980年(昭和55年)の中国によるものを最後に大気圏内核実験は行われなくなり、地表付近の放射性物質は徐々に減少してきました。
核実験の核分裂及び核融合の年間収量及び大気圏内配分、全ての国
年 | 実験回数 | 収量(Mt) | 配分した核分裂収量(Mt) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
核分裂 | 核融合 | 総計 | 局地及び地域 | 対流圏 | 成層圏 | ||
1945 | 3(※a) | 0.057 | 0 | 0.057 | 0.011 | 0.046 | 0 |
1946 | 2 | 0.042 | 0 | 0.042 | 0.011 | 0.031 | 0 |
1947 | |||||||
1948 | 3 | 0.10 | 0 | 0.10 | 0.053 | 0.051 | 0 |
1949 | 1 | 0.022 | 0 | 0.022 | 0.011 | 0.011 | 0 |
1950 | |||||||
1951 | 18 | 0.51 | 0.08 | 0.59 | 0.18 | 0.32 | 0.014 |
1952 | 11 | 6.08 | 4.95 | 11.0 | 2.89 | 0.28 | 2.91 |
1953 | 18 | 0.35 | 0.36 | 0.71 | 0.099 | 0.24 | 0.013 |
1954 | 16 | 30.9 | 17.4 | 48.3 | 15.4 | 0.31 | 15.2 |
1955 | 20 | 1.18 | 0.88 | 2.06 | 0.10 | 0.22 | 0.86 |
1956 | 32 | 10.0 | 12.9 | 22.9 | 3.68 | 0.99 | 5.31 |
1957 | 46 | 5.25 | 4.37 | 9.64 | 0.14 | 1.61 | 3.50 |
1958 | 91 | 26.5 | 30.3 | 56.8 | 5.86 | 3.31 | 17.3 |
1959 | |||||||
1960 | 3 | 0.072 | 0 | 0.072 | 0.036 | 0.035 | 0.0009 |
1961 | 59 | 18.2 | 68.3 | 86.5 | 0.011 | 1.15 | 17.1 |
1962 | 118 | 71.8 | 98.5 | 170.4 | 0.052 | 5.77 | 66.0 |
1963 | |||||||
1964 | 1 | 0.02 | 0 | 0.02 | 0.010 | 0.010 | 0 |
1965 | 1 | 0.04 | 0 | 0.04 | 0 | 0.037 | 0.003 |
1966 | 8 | 0.94 | 0.20 | 1.14 | 0.28 | 0.41 | 0.25 |
1967 | 5 | 1.88 | 1.30 | 3.18 | 0.011 | 0.046 | 1.82 |
1968 | 6 | 4.16 | 3.44 | 7.60 | 0 | 0 | 4.16 |
1969 | 1 | 1.9 | 1.1 | 3 | 0 | 1.90 | |
1970 | 9 | 3.38 | 2.40 | 5.78 | 0 | 0.095 | 3.28 |
1971 | 6 | 0.84 | 0.62 | 1.46 | 0.01 | 0.057 | 0.77 |
1972 | 5 | 0.13 | 0 | 0.13 | 0 | 0.11 | 0.02 |
1973 | 6 | 1.42 | 1.1 | 2.52 | 0 | 0.021 | 1.40 |
1974 | 8 | 0.75 | 0.46 | 1.21 | 0 | 0.19 | 0.56 |
1975 | |||||||
1976 | 3 | 2.32 | 1.8 | 4.12 | 0.01 | 0.09 | 2.22 |
1977 | 1 | 0.02 | 0 | 0.02 | 0 | 0.02 | 0 |
1978 | 2 | 0.04 | 0 | 0.04 | 0.02 | 0.02 | 0 |
1979 | |||||||
1980 | 1 | 0.5 | 0.1 | 0.6 | 0 | 0.11 | 0.39 |
合計 | 543(※b) | 189 | 251 | 440 | 29 | 16 | 145 |
全世界拡散総計 | 160.5 | ||||||
全地球降下量測定値総計 | 155(※c) |
(UNSCEAR 2000年報告書より)
(※a)日本における軍事実戦使用2回を含む
(※b)統計は安全性検査39回含む:アメリカ合衆国22回、連合王国12回、フランス5回
(※c)Sr-90測定値より推測。Sr-90の降下に先立ち放射性壊変2%~3%が起こったため、推定拡散量(大気へ注入)もまた160Mtとなるであろう。
チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年)
1986年(昭和61年)4月26日、ソ連ウクライナ共和国西部のチェルノブイリ原子力発電所4号炉で起きた原子炉爆発事故をいいます。
この事故で大量の放射性物質が環境中に放出され、多くの作業員と周辺住民が放射線被曝を受けました。この事故で放出された放射性物質は、日本にも飛来しました。
このチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故以降数年間にわたり、放射化学分析法によるCs-137の分析結果には、同事故に由来する少量のCs-134が含まれる場合があります。
(参考) 事故により放出された主な放射性核種の推定値 (×1015Bq)
放射性核種 | 1996年推定値b | 半減期 |
---|---|---|
134Cs | 44-48 | 2.06年 |
136Cs | 36 | 13.1日 |
137Cs | 74-85 | 30.04年 |
b:1986年4月26日時点に崩壊補正
(UNSCEAR 2000年報告書よりセシウムだけを抜粋)
ジェーシーオー臨界事故(1999年)
1999年(平成11年)9月30日、茨城県東海村の(株)ジェーシーオーのウラン加工施設で起きた臨界事故をいいます。
この事故で作業員3名が放射線被曝を受け、2名が死亡しました。事故直後に一時的に空間放射線レベルが上昇しました。
劣化ウラン含有弾誤使用問題に係る環境調査
文部科学省防災環境対策室
平成7年12月と平成8年1月に、在日米軍の航空機が、鳥島射爆撃場(図1)での訓練中に、米軍の規則上我が国の訓練場における使用が禁止されている劣化ウラン含有弾(図2)1520発を誤って使用しました。
図1 鳥島射撃場
図2 劣化ウラン含有弾
平成9年1月、日本政府は米国政府の通報を受け、米国政府に対し遺憾の意及び再発防止を申し入れ、本件に関するさらなる情報の提供を申し入れるとともに、平成9年2月から3月にかけて、環境調査を実施し、総合評価(※1)を行いました。
鳥島への影響
環境調査の結果、空間放射線量率、大気浮遊じん、鳥島周囲の海水及び海産生物(海藻)に劣化ウランの影響は認められないことが確認された。
他方、土壌については、鳥島の大部分を占める平坦部での影響は認められなかったが、劣化ウラン含有弾の掃射の標的になっていたとされている鳥島北側丘の南斜面の土壌の一部に劣化ウランが含まれていた。
しかしながら、その濃度を検討の結果、劣化ウランからの外部被ばくによる放射線量の寄与は自然のウランに比べて100分の1程度でしかなく、これらの土壌に含まれる劣化ウランから受ける線量の影響は十分に小さい。
以上のことから、鳥島は放射線に係る安全管理が施されていることを考慮すれば、劣化ウランの影響範囲は極めて限られたものであり、鳥島に立ち入ったとしてもその影響は十分小さいと考えられる。鳥島の周辺環境への影響
鳥島周辺海域の調査の結果、同海域の空間放射線量率、水中放射線量率、海水、海産生物(魚類等)に劣化ウランの影響が認められないことが確認された。
仮に未回収のウランがすべて鳥島の周囲半径約5.5kmの立入制限水域内の海水中に溶け出したと仮定して計算した場合においても、その量は海水中に溶けている自然のウラン量の約0.13%であって影響を与えるようなレベルではない。加えてこの海域は黒潮が絶えず流れており、劣化ウランは海水に自然に溶けている天然ウランに直ちに希釈されてしまうと考えられること等から、劣化ウランの鳥島周辺海域への影響は無視できる。
なお、鳥島に最も近い居住可能地域である久米島においても、空間放射線量率、大気浮遊じん、島の周囲の海水及び海産生物(海藻)に劣化ウランの影響は認められないことが確認され、このことから、久米島の環境や一般公衆の健康に劣化ウランの影響はないと考える。
また、仮にすべての未回収の劣化ウランがエアロゾル化したと仮定して計算した場合でも、吸入摂取による線量は自然界から通常受ける線量に比べ0.3%程度であり、実際は大量にエアロゾル化したとは到底考えられないことからも、劣化ウランのエアロゾル化による影響は無視できる。
以上の検討を総合すると、鳥島周辺環境への劣化ウランの影響は無視できると考えられる。
総合評価の概要は、以下のとおりです。
劣化ウランの毒性は、身の回りの海水や土砂中に存在するウランと同じまたは小さいです。
劣化ウランの毒性は、重金属としての毒性と放射線による影響に分けられます。このうち、重金属としての毒性については自然環境中にもともと存在するウラン(いわゆる自然のウラン)の毒性と全く同じです。また、外部被ばくによる放射線量の寄与については、劣化ウランがガンマ線を放出し線量に大きく寄与する娘核種を含まないため、自然のウランに比べて100分の1程度と小さいものです。
劣化ウランとは
原子力発電所等の核燃料となる濃縮ウラン(核反応エネルギーを出すウラン235の割合を3%前後に濃縮したウラン)を生産するときにおいて残されるウランのことです。劣化ウランは、ウラン235の割合が例えば0.3%と自然のウランの約0.7%より小さく、100%近くのほとんどの成分がウラン238です。
劣化ウラン含有弾とは
ウランの高い比重(水の約19倍)を利用して高い貫通力を有する弾です。核反応によるエネルギーを利用するものではないので、核兵器ではありません。
自然のウランは地球誕生以来、私たちの身の回りの海水や土砂の中に自然に存在しています。
普段の生活の中で私たちが受ける自然放射線の約7割が自然ウラン、トリウムやその孫核種からのものです。自然のウランとは
自然に存在する92種類の元素の中でも最も重い原子番号92の放射性物質です。微量ですが普通の土砂や海水にも含まれています。[解説5]
自然のウラン中のウラン235の割合は0.7%で残りの99%以上はウラン238です。自然のウランと劣化ウランの毒性
ウランの重金属毒性については、硝酸ウラニルなどの水に溶ける形で一定量以上を経口摂取すると、鉛などの他の重金属と同じように腎臓や肝臓への影響が考えられます。しかし、本誤使用問題における劣化ウランは、[解説3]にもあるとおり、環境に仮に全て放出されていたとしても無視できるレベルであり、さらに仮に経口摂取されたとしても、水に溶けにくいため、速やかに体の外に排出されてしましますので、問題ありません。
放射線影響のうち体の外部からの被ばくについては、劣化ウランは自然のウランに含まれているウランの娘核種が除かれているため、ガンマ線のレベルが自然のウランに比べてかなり低く、その影響は約100分の1と少なくなっています。また、体の内部からの被ばくについては、上に述べたように水に溶けにくいため、速やかに排出されてしまいます。呼吸による吸入摂取ではアルファ線による内部被ばくの影響が考えられますが、本誤使用問題においては、[解説3]にもあるとおり環境影響は無視できるレベルであり、問題ありません。海外における米軍の戦時における劣化ウラン含有弾の使用
海外において米軍が戦時に大量の劣化ウラン含有弾を使用したため、その地域住民の健康影響の懸念について報道されています。このうち、ユーゴスラビア連邦共和国における紛争において劣化ウラン含有弾(劣化ウラン量にして約10トン)が使用されましたが、平成13年に国際連合環境計画(UNEP)が調査を実施し、とりまとめた「セルビアとモンテネグロの劣化ウラン」の報告書において、警告を必要とするようなレベルに達する地域はなかったとされています。他の地域における健康影響に係る懸念についても、今後、同様に科学的な評価が待たれるところです。いずれにしても、本誤使用問題については誤使用された量も190kgと少なく、環境影響についても[解説3]、[解説5]にも述べているとおり、全く問題ありません。
環境影響の評価結果は、海水中の自然のウランの濃度や私たちの身の回りの自然放射線と比べても問題ありません。
未回収の劣化ウラン含有弾から劣化ウランが仮に全て放出されたとしても、その濃度や放射線量は、自然環境中の海水にもともと存在する自然のウランの濃度や私たちの身の回りの自然放射線に比べても極めて小さいものです(海水中の自然のウランの濃度に比べ約1000分の1、自然放射線に比べて約1000分の3)。したがって、劣化ウラン含有弾による環境影響は無視できるとの評価結果であり、問題ありません。
私たちの身の回りには自然界からの放射線が存在しています。目には見えませんが、私たちの体は自然界から常に放射線を受けています。その量は、日本では年間約2.1mSv(平均値)です。日本国内でも住む場所によって年間約0.2mSv前後違います。また、外国では年間10mSvとなるところもあります。世界の平均値は年間2.4mSvです。その他に、日本人は医療で年間約3.87mSv(平均値)を受けています。
環境調査の結果、劣化ウランによる影響は全く認められませんでした。
実施された環境放射能調査結果においても、劣化ウランの久米島など周辺環境への影響は全く認められず、上記の評価が再確認されています。
環境調査として、土壌、海水などのウランの分析を行いましたが、いずれの結果も他の地域で分析された自然のウランの測定結果(いわゆる文献値)と同程度であり、また、そのウラン組成を調べた結果からも、劣化ウランの影響は全く認められませんでした。
5年間にわたる調査においても、劣化ウランによる環境影響は全く認められませんでした。
上記調査を含め、その後、平成14年まで5年間にわたり実施された環境調査結果では、いずれの年においても劣化ウランの環境影響は全く認められず、劣化ウランの環境影響は無視できるとの結論が繰り返し再確認されています。
また、平成14年が調査期間5年目の節目に当たることから、劣化ウランに係る毒性についても改めて精査しましたが、上記の総合評価の結論は、全く変わらないことを確認しています。