環境放射能や放射線について、Q&A形式でわかりやすく説明しています。
放射能って?
放射能は、アルファ線、ベータ線、ガンマ線などの放射線を出す能力のことをいいます。放射線を出す物質のことを放射性物質といいます。
放射能は放射線を出す能力をいいます。
放射能を表す単位としては、放射性物質が一秒間あたりに何個壊れるかを示すBq(ベクレル)が使われます。
2 放射線って?
放射線って?
放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線があり、それぞれの放射線で物質を通り抜ける力が違っています。
アルファ線
陽子2個と中性子2個がひとかたまりになった放射線です。物質を通り抜ける力は弱く、薄い紙1枚程度で止めることができます。
ベータ線
原子核から飛び出した電子です。物質を通り抜ける力は、アルファ線より強いが、アルミニウムなどの薄い金属板で止めることができます。
ガンマ線
放射線を出す物質がアルファ線やベータ線を出した後、まだ余分なエネルギーが残っている場合に出る放射線で、その正体は電磁波です。物質を通り抜ける力はアルファ線やベータ線に比べて強く、鉛や厚い鉄の板で止めることができます。
中性子線
原子核が壊れた時に出る放射線で、水やコンクリートで止めることができます。
放射線が物質に当たるとどうなるの?
放射線が物質に当たると、原子の中にある電子を弾き飛ばすことがあります。
原子核は陽子と中性子が結合してできています。放射線が電子を弾き飛ばすことを「電離作用」といいます。
どうして放射線が出るの?
不安定な原子核は、放射線を出して安定な状態になります。
原子核の中の中性子や陽子の数がとても多いと不安定になることがあり、中性子2個と陽子2個のかたまりを出して安定になります。このかたまりがアルファ線です。
原子核の中の中性子の数が陽子に比べて多くなり不安定になると、中性子から電子が出て陽子となります。この電子がベータ線です。
上記のアルファ線やベータ線が出る時に、電磁波であるガンマ線が出ることもあります。
目に見えない放射線はどうやって測るの?
放射線が物質に当たると、電気的に作用(電離作用)しますが、これを利用して放射線を測ることができます。
電離作用を利用した放射線の検出
電圧をかけた2つの電極の間を放射線が通ると、回りのものがプラスやマイナスの電気を帯びたもの(イオン)に変化します。このイオンを電流に変えると、放射線を検出することができます。
自然に存在する放射性物質って?
自然の放射性物質には、宇宙線によってできるものと、地球にもともとあるものがあります。
宇宙線によってできる放射性物質
宇宙空間で生まれた高エネルギーの粒子(陽子などで、これを宇宙線といいます。)が地球に到達し、これらが地球の空気中の窒素や酸素と衝突して、ベリリウム7、炭素14などの放射性物質ができます。
地球にもともと存在する放射性物質
約45億年前に地球が誕生した時から多くの放射性物質がありました。その中で、放射能が半分になるまでの時間(半減期といいます。)の長いカリウム40、トリウム232、ウラン238などは今も地球に残っています。
参考
ベリリウム7など元素名のあとの数字は、陽子と中性子の数の合計である質量数を示しています。
ベリリウム7は陽子4個と中性子3個、炭素14は陽子6個と中性子8個、カリウム40は陽子19個と中性子21個、トリウム232は陽子90個と中性子142個、ウラン238は陽子92個と中性子146個からできています。
人工の放射性物質って?
我々の身の回りには、昔の大気圏内の核実験によって作られた放射性物質や医療、工業、農業分野などで利用される放射性物質があります。
核実験による放射性物質
1980年まで続けられた大気圏内の核実験により生成された多くの放射性物質が、雨水やちりとともに地面や海に落ちてきました(放射性降下物といいます。)。これらのうち、放射能が半分になるまでの時間(半減期といいます。)が30年程度であるストロンチウム90やセシウム137は、今も我々の身の回りにわずかですが残っています。
原子力施設による放射性物質
原子力発電所などからもごくわずかですが、トリチウム(水素3)や希ガスであるクリプトン85などの放射性物質が放出されています。
医療、工業、農業分野などでの利用例
医療では、がんの診断(PET検査)に陽電子を出す炭素11やフッ素18が、血液の流れの診断にテクネチウム99mが、甲状腺の病気の治療にヨウ素131が利用されています。
工業では、非破壊検査にイリジウム192が、農業では、ジャガイモの発芽防止にコバルト60が利用されています。
昔の核実験でできた放射性物質が今も残っているって本当?
はい、わずかですが残っています。
1945年から1980年にかけて大気圏内で行われたウランやプルトニウムの核実験により、多くの人工放射性物質が生成されましたが、その中でも生成量が多く、半分の量になるのに約30年もかかるため、ストロンチウム90やセシウム137は現在でも残っています。
大気圏内核実験は1980年に終わりましたが、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故で一時的にセシウム137の濃度が高くなりました。しかし、その後すぐにもとに戻りました。
1974年からの我が国における雨水・ちり中のセシウム137の経年変化を下の図に示します。
ストロンチウム90やセシウム137は私たちの体に影響しないの?
我々の身の回りの放射線の線量に比べて、ストロンチウム90やセシウム137からの線量はわずかです。
我が国においては、1人当たりもともと自然に存在する放射線から1年間に1.5mSv(※1)、医療などの人工放射線から1年間に2.3mSv(平均値)を受けています。ストロンチウム90やセシウム137などの放射性降下物からは、1年間でわずかに0.01mSvです。
(※1) mSv(ミリシーベルト):人への放射線の影響を示す単位です。
ストロンチウム90やセシウム137はどうやって測るの?
海水や日常食など身の回りのものから、目的のストロンチウムやセシウムだけにして、放射能を測ります。
本Q&Aを作成するに当たり、下記の出版物を参考にさせて頂きました。
(参考図書)
- 原子力ポケットブック: 日本原子力産業会議
- 核化学と放射化学:齋藤信房ら共訳 丸善
- 基礎無機化学:J,D,LEE 著、浜口博 訳 東京化学同人
- 放射線計測の理論と演習:ニコラス ツルファニディス 著 阪井英次 訳 現代工学社
- 放射線ってなんだろう?:日本原子力研究所
- 放射線データブック: 村上悠紀雄ら 編集 地人書館
- 放射線のはなし:野口正安 著 日刊工業新聞