環境放射能測定に関する基礎知識

分析試料の採取と前処理法、環境放射能と放射線の測定法について解説しています。

試料の採取と前処理

大気浮遊じんAirborne Dustは、年4回(4~6月、7~9月、10~12月及び1~3月)、ハイボリウムエアサンプラを用いて3ヶ月で10,000m3の大気を吸引します。
ろ紙には、HE-40T等を使用します。ハイボリウムエアサンプラの開口吸入部の位置は、地上1m以上の高さにします。

ろ紙式集じん器
ろ紙式集じん器

降下物(雨水、ちり等)は、毎月の月初め(年12回)に所定の大型水盤(受水面積約5,000cm2)中に深さ約1cm以上になるように純水を入れておき、1ヵ月間の降下物を受けます。
1ヵ月間の降下物試料全量をポリエチレン製バケツ等に移し、水盤に付着したじん埃はゴム製ヘラ等でこすり取り、先の降下物試料とあわせます。
適量ずつ蒸発皿またはビーカーに移して蒸発濃縮し、さらに測定容器に移して赤外線ランプ等を用いて加熱しながら蒸発乾固したものを分析に使用します。

ステンレス製大型水盤
ステンレス製大型水盤

上水(源水または蛇口水)は年1回(6月)、源水は浄水場の取水口中心部または浄水場の源水蛇口から、蛇口水は家庭内等の水道蛇口から採取します。湖沼水等の淡水は年1回、河川の流入流出付近を避け、湖沼の中心から表面水を採取します。採取量は、上水、淡水共に100Lです。
適量ずつ蒸発皿またはビーカーに移して蒸発濃縮し、さらに測定容器に移して赤外線ランプ等を用いて加熱しながら蒸発乾固したものを分析に使用します。

蛇口水の試料採取風景
蛇口水の試料採取風景

年1回(梅雨明け頃)、採取場所は比較的広いその付近を代表する平坦地で、過去に地表が乱されていないところにします。内径5~8cmの土壌採取器を地表面に打ち込み、表層(0~5cm)の土壌を2~4kg採取した後、引き続き下層(5~20cm)の土壌を6~12kg採取します。
約105℃に調節した乾燥器で十分に乾燥し、粉砕して分析に使用します。

土壌の採取
土壌の採取

年1回(7~8月)、干潮時に水深1m以上あり海底土の移動が少ない地点で、エクマンバージ型またはカンナ型採泥器を使用して4kg採取します。
採取した試料は、静置して上澄みを除くか大型ブフナーろうと等でろ過した後、ほうろう引きまたはステンレス鋼製のバットに広げ、約105℃に調節した乾燥器で十分に乾燥し、粉砕して分析に使用します。

採泥器
採泥器

年1回(収穫時期)、生産地域が特定できるものを約3kg入手します。

年1回(収穫時期)、生産地域が特定できるものを約4kg入手し、食用としない根、腐敗した部分を取り除いたものを試料とします。
試料を磁製蒸発皿に入れ、ガスバーナーや電熱器等でゆっくり炭化または乾燥器で乾燥した後、電気炉に入れて450℃で約24時間灰化したものを分析に使用します。

年1回(一番茶の摘採時期)、生産地域、採取時期等の明らかな荒茶または製茶等を製造工場等から約500g入手します。
試料を磁製蒸発皿に入れ、ガスバーナーや電熱器等でゆっくり炭化または乾燥器で乾燥した後、電気炉に入れて450℃で約24時間灰化したものを分析に使用します。

年1回(6月)、都道府県内で生産され、生産地域が特定できるものを約3kg入手します。

年1回(7~8月)、採取場所は河川水が流入しないところにします。ポリエチレン製バケツ等で表面水を約40L採取し、ポリエチレン製容器に入れます。

年1回(対象の水産物の漁期などを考慮)、該当する水域(漁場)における漁獲量が多いなど漁業経営上重要と考えられることや該当水域における生活期間が長いなど調査対象として適しているかといった観点から、その地域を代表できる種類と場所を選定し、採取水域を特定した試料(全体重量の目安は、魚類:約4kg、貝類:4~5kg、そう類:2~3kg)を入手します。
入手後の試料は、まず水洗し、ろ紙等で十分に水分を拭き取った後、試料とするための前処理(大型の魚の骨や内臓等を取り除き筋肉部にしたり(小型の魚の場合は全体を使用)、貝の殻やそう類の根などを取り除く作業)を行います。
試料とする準備が整ったものは、水分を磁製蒸発皿に入れてガスバーナーや電熱器等で時間をかけて加熱するか乾燥器で乾燥させた上で電気炉に入れ、約450℃で約24時間加熱して灰化させて分析に使用します。

魚類の前処理
魚類の前処理

6月及び11~12月の年2回、普段の食事を対象とし、5世帯からそれぞれ1人1日分の朝、昼、夕及び間食のすべてを広口ポリエチレン瓶等に集めます。魚の骨や枝豆のサヤ等の食用としない部分を取り除きます。日常食試料には飲料水等が含まれており、加熱し水分を蒸発させます。さらに105℃に調節した乾燥器中で乾燥した後、電気炉中(450℃、約24時間)で灰にし、この灰化物を分析に使用します。

定時降水は、毎日一定の時刻(通常午前9時)に前24時間中の降水を採取し、その平均的な放射能濃度を測定するものです。試料の採取には70A-H型放射能降水採取装置などが用いられています。採取した試料はよくかき混ぜた後、メスシリンダーで全量をはかります。採取量が100ml未満の場合には全量、100ml以上の場合には100mlを分取し、分析に供します。
試料を蒸発皿またはビーカーに移して蒸発濃縮し、電熱器や赤外線ランプ等を用いて乾固したものを低バックグラウンドβ線測定装置で測定します。

定時降水の採取と前処理

環境放射能分析と環境放射線測定

分析試料を硝酸等で分解して溶液にします。炭酸塩沈殿を生成させ、Cs-137と分離します。沈殿中のSr-90をイオン交換樹脂法によりカルシウム等から分離します。放射能測定の際にはSr-90から生成するY-90を分離精製し、Y-90の放射能を低バックグラウンドβ線測定装置で測定します。

Sr-90の放射化学分析
Sr-90の放射化学分析

分析試料を硝酸等で分解して溶液にした後、炭酸塩沈殿を生成させます。沈殿はSr-90の分析に使用します。上澄み液中のCs-137をリンモリブデン酸アンモニウムに吸着させた後、イオン交換樹脂法により分離精製します。塩化白金酸セシウムの沈殿を生成させ、その放射能を低バックグラウンドβ線測定装置で測定します。

Cs-137の放射化学分析
Cs-137の放射化学分析

NaI(Tl)シンチレーション式モニタにより空間放射線量率を連続的に測定します。放射線検出器は、屋上等の比較的高い場所、または周囲に高い建物のない平坦な草地等に設置します。空間放射線量率は、1日の最大値、最小値及び平均値を求めます。

NaI(Tl)シンチレーション式サーベイメータ(携帯型の簡易測定器)により空気吸収線量率(μGy/h)を測定します。放射線検出部を地表面上1mの高さにおいて水平向きに持ち、10から30秒間隔で測定値を複数回読みとり、平均値を求めます。

空間放射線量率測定(サーベイメータによる測定)
空間放射線量率測定
(サーベイメータによる測定)

ラドン濃度測定器を測定場所に3ヶ月間設置します。測定器に入った空気中のラドン(Rn-222)は壊変してα線を放出し、そのα線はポリカーボネート製の測定フィルム上に飛跡(αトラックといわれる極めて微少な傷跡のようなもの)を残します。化学的な処理を行うことで飛跡を拡大し、光学顕微鏡を用いてその数を数え、ラドン濃度を求めます。

ラドン濃度測定器
ラドン濃度測定器