文章で解説

環境放射能や放射線について、文章でわかりやすく説明しています。

放射線って、放射能って、何?

放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線があります。放射能は、これらの放射線を出す能力のことを言います。

身の回りのものは、全て原子からなっています。
例えば、我々が吸っている酸素は、酸素の原子2個が結合してできています。 原子そのものは、原子核とその周りを回っている負の電荷を持つ電子からなっています。原子核は正の電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子からなっています。 陽子の数が原子番号を表しています。
酸素は原子番号8ですので、酸素の原子核には陽子が8個あります。 酸素原子の中性子の数はほとんどが8個ですが、9個や10個のものもあります。このように、陽子の数つまり原子番号が同じで、中性子の数が異なる核種を同位体と呼んでいます。
核種とは、陽子と中性子の数により決まる原子核の種類を意味しています。原子核は陽子と中性子の数によって安定かどうかが決まってきます。陽子の数が20までの原子核は、陽子と中性子の数がほぼ等しい時が最も安定です。これより陽子の数が増えると、陽子の間で反発力が増えてきます。中性子は反発力を増やすことなく引力を増します。
よって、陽子の数が20より多くなると、中性子の数が徐々に増え、つまり、中性子と陽子の数の比が1より徐々に増え、原子核は安定となります。原子核がさらに大きくなると、陽子の間の反発力はさらに増え、引力が陽子を結びつけておくことができなくなります。この時、原子核が壊れ、ヘリウムの原子核(陽子2個、中性子2個)が放出されます。
例えば、ウラン238(陽子92個、中性子146個)は、ヘリウムの原子核(陽子2個、中性子2個)を放出してトリウム234(陽子90個、中性子144個)となります。 この時放出されるヘリウムの原子核をアルファ粒子と呼びます。また、このような壊変をアルファ壊変と呼びます。
一方、中性子と陽子の比が大きくなりすぎても原子核は不安定となります。
例えば、ウランやプルトニウムの大気圏内核実験などで人工的に作られたセシウム137(陽子55個、中性子82個)は、安定なセシウムの原子核であるセシウム133(陽子55個、 中性子78個)に比べて中性子が多くなりすぎているため、セシウム137の原子核の中性子1個が電子を放出して陽子となります。原子核の陽子は1個増えるため、原子番号56のバリウムに変わります。このバリウム137は安定な原子核です。このような壊変をベータ壊変と呼んでいます。セシウム137からバリウム137に壊変する時、直接安定なバリウム137の原子核になる場合もありますが、 一度準安定なバリウム137(バリウム137mとして区別しています。)になり、その後バリウム137mからバリウム137となります。この時、非常に短い波長の電磁波が放出されます。
上記において放出されるアルファ粒子をアルファ線、電子をベータ線、電磁波をガンマ線と呼び、これらをまとめて放射線と呼んでいます。
放射能は、これらの放射線を放出する能力のことを意味しています。

一般の環境にある放射線は測れるの?

放射線は、サーベイメータという測定器を用いるとわずかな量でも測ることができます。

放射線は、目で見るとか、耳で聞くとかなど、人の五感で感じることはできませんが、測定器を用いるとわずかな量でも測ることができます。 放射線の測定には、サーベイメータという機器を使います。アルファ線、ベータ線、ガンマ線により、用いるサーベイメータの種類が異なります。
アルファ線はZnS(Ag)シンチレーション式サーベイメータ、 ベータ線はGM計数管式サーベイメータ、ガンマ線はNaI(Tl)シンチレーション式サーベイメータ及び電離箱式サーベイメータです。

アルファ線を測定できるZns(Ag)シンチレーション式
Zns(Ag)シンチレーション式

ベータ線を測定できるGM計数管式
GM計数管式

ガンマ線を測定できるNaI(Tl)シンチレーション式
NaI(Tl)シンチレーション式

ガンマ線を測定できる電離箱式
電離箱式

アルファ線は紙1枚でも止まってしまい、ベータ線は薄い金属で止まってしまいます。このため、アルファ線やベータ線の測定は、主に表面汚染の測定に限られます。
一般の環境における空間の放射線測定はガンマ線測定を意味しています。放射線の強さは単位時間当たりの放射線量である空間放射線量率として示しています。 人への影響を示す1cm線量当量のμSv/h(マイクロシーベルト/時間:マイクロは百万分の1です。)か、 または空間における放射線の強度を示す量である空気カーマ(その量は、一般環境の測定では、空気吸収線量と同じと考えて問題ありません。)のμGy/h(マイクログレイ/時間)として表されています。
一般の環境の空間放射線量率は、もともと自然に存在するウランなどの放射性物質からガンマ線が放出されているため、地域や天候によっても異なりますが、おおよそ0.02~0.10μSv/hの範囲にあります。雨や雪の降り始めは0.20μSv/h近くになることもあります。
NaI(Tl)シンチレーション式サーベイメータは、0.1μSv/h から30μSv/h 程度まで測定できます。
電離箱式サーベイメータは、1μSv/h から10~300mSv/h 程度(ミリシーベルト/時間:ミリは千分の1です。)まで測定できます。
また、空間のガンマ線を連続して測定するため固定式モニタリングポストがあります。 検出器は、サーベイメータと同じく、主にNaI(Tl)及び電離箱です。なお、空気カーマ(μGy/h)から実効線量(μSv/h)の推定値を求めるには、空気カーマに0.8を乗ずることとなっています。だだし、緊急時には混乱を避けるため、空気カーマと実効線量は同じとして扱うこととなっています。

屋外に設置されている固定モニタリングポスト
固定モニタリングポスト

自然に存在する放射性物質とは?人工放射性物質とは?

地球誕生以来、今も放射線を放出している自然に存在する放射性物質と、人間が作り出した人工放射性物質があります。

自然に存在する放射性物質

地球誕生以来、ずっと存在していて、今も放射線を放出して壊変している放射性物質があります。これらを自然に存在する放射性物質と呼んでいます。
代表的な自然に存在する放射性物質は、ウラン238、ウラン235、トリウム232や、ウラン238が壊変して生成したラジウム226、ラドン222などがあります。 ウラン238、ウラン235、トリウム232が今でも残っているのは、これらの放射性物質が壊変して原子の数が半分になる時間、これを半減期と呼んでいますが、その半減期がそれぞれ45億年、0.7億年、140億年と、地球の年齢46億年に比べて今も残れる年数だったからです。

人工放射性物質

自然に存在する放射性物質とは別に、人間が作り出した放射性物質があります。これらを人工放射性物質と呼んでいます。例えば、1980年まで行われていた大気圏内核実験において、 ウランやプルトニウムの核分裂で生成した人工放射性物質であるストロンチウム90やセシウム137は、今も一般の環境に残っています。

1980年まで行われていた大気圏内核実験で生成したストロンチウム90やセシウム137が、現在でも一般の環境に残っているのは、なぜ?

半減期がまだ半分程度残っているため、現在でも一般の環境に残っています。しかし、自然放射線や人工放射線による線量に比べわずかです。

大気圏内核実験では、ウランやプルトニウムが核分裂して多くの人工放射性物質が生成しています。
その中でも、質量数(陽子と中性子の数を合わせた数)が90付近と140付近の放射性物質が多く生成しています。まさしく、これらの質量数に相当するのがストロンチウム90(この90は質量数を表しています。)とセシウム137です。
ウランやプルトニウムが核分裂して、ストロンチウム90やセシウム137などが生成する割合を核分裂収率と呼んでいます。
ウランやプルトニウムが核分裂した時のストロンチウム90やセシウム137の核分裂収率は高く、例えば、ウランの核分裂ではそれぞれ5.9%、6.2%です。また、最後の大気圏内核実験は1980年に実施され、それから現在まで数十年経過していますが、ストロンチウム90とセシウム137の半減期は、それぞれ29年、30年なので、まだ半分程度は残っていることになります。
このため、現在も一般の環境である雨水、土壌や飲食物にストロンチウム90とセシウム137が残っています。
その一例として、日常食(我々が毎日食している朝、昼、晩の三食のことを意味しています。)の経年変化を下図に示します。1980年までは大気圏内核実験の影響が見られます。 また、1986年4月に発生した旧ソ連のチェルノブイル原子力発電所の事故の影響が、1986年度と1987年度に見られます。しかし、ストロンチウム90やセシウム137からの線量は、自然放射線や医療などの人工放射線による線量に比べわずかです。

日常食中のストロンチウム90及びセシウム137濃度の経年変化

雨水や日常食のストロンチウム90やセシウム137はどうすれば測れるの?

雨水は水分を蒸発し、日常食は加熱し灰にして容量を小さくした後、測定装置で測ります。

ほとんどの放射性物質は壊変した時にガンマ線を放出します。ガンマ線は単一のエネルギーを持っていて、それぞれの物質から放出されるエネルギーは決まっているので、ガンマ線を測れば雨水や日常食に含まれる放射性物質が何であるか、また、どの程度含まれるかを知ることができます。
しかし、ストロンチウム90の壊変では、ガンマ線が全く放出されずベータ線のみが放出されます。ベータ線は、ガンマ線と違って単一のエネルギーではなく連続したエネルギーを持っているため、どの放射性物質から放出されているかを決めることはできません。
このため、雨水については水分を蒸発して、日常食については加熱し灰にして容量を小さくした後、塩酸などの試薬を使ってストロンチウムだけに分離する必要があります。 ストロンチウムだけになった後に、ストロンチウム90のベータ線(実際には、ストロンチウム90の壊変生成物であるイットリウム90のベータ線のエネルギーの方が大きいため、このベータ線を測定しています。)をGM計数管を備えたベータ線測定装置で測ると、どの程度含まれるかが分かります。
セシウム137は壊変すると、ガンマ線とベータ線を放出します。雨水や日常食の容量を小さくした後、ゲルマニウム半導体検出器を備えたガンマ線測定装置で、セシウム137から放出されるガンマ線(エネルギーは661.6keV:キロエレクトロンボルト)を測ると、どの程度含まれるかが分かります。また、ストロンチウム90と同じく、容量を小さくした後、セシウムだけに分離し、そのベータ線を測ることで、どの程度含まれるかが分かります。この方法はガンマ線を測る場合に比べると、より低いところまでどの程度含まれるかが分かります。どの程度含まれるかを放射能濃度として示しています。
その単位は、分数の分子に1秒当たりに崩壊する原子核の数(Bq[ベクレル]で表します。)を分母に雨水の場合は面積当たりで採取しているのでkm2を日常食の場合は一人分の一日当たりを意味する人×日を用いています。

低バックグラウンドβ線測定装置(GM計数管を備えたベータ線測定装置)
GM計数管を備えたベータ線測定装置
(低バックグラウンドβ線測定装置)

セイコー・イージーアンドジー社製(ゲルマニウム半導体検出器を備えたガンマ線測定装置

ミリオンテクノロジーズ・キャンベラ社製(ゲルマニウム半導体検出器を備えたガンマ線測定装置

ゲルマニウム半導体検出器を備えたガンマ線測定装置
写真左:セイコー・イージーアンドジー社製
写真右:ミリオンテクノロジーズ・キャンベラ社製

自然に存在する放射性物質ラドンって?

ラドンは自然に存在する気体の放射性物質で、地面や建材などから空気中に拡散しています。

ラドンは自然に存在する気体の放射性物質で、地面や建材などから空気中に拡散しています。このため、密閉した屋内などに溜ることがありますが、窓を開けるなど換気を行うことで屋外に排出されます。
ラドンは一般にラドン222のことを意味しています。半減期が約3.8日でアルファ線を放出して壊変する放射性物質です。
ラドンのほかにも、自然に存在する放射性物質があり、私たちは毎日の生活でそれらから放射線を受けています。 国連科学委員会(UNSCEAR)の2000年版の報告書によると、自然に存在する放射性物質から受ける被ばくは、世界の平均値として年間2.4mSvであり、その約半分はラドンによるものと記載されています。ラドンは呼吸により人体に取り込まれ、アルファ線を放出しながら壊変していきます。
ウランの地下鉱山で働く人など、ラドン濃度が大変高い環境で、大量のラドンを吸入した場合は、ラドンが放射線を出した後にできる物質が気管支や肺に沈着し、それらから出る放射線により肺がんを引き起こす可能性があると言われています。
国際放射線防護委員会(ICRP)は、ラドンに関する放射線防護の基礎的な考え方や対策基準を示しています。それによると、屋内ラドン濃度の対策基準(何らかの措置を施す必要のあるラドン濃度)として、200Bq/m3~600Bq/m3(※1)(年実効線量として3mSv~10mSvに相当)の範囲を勧告しています。この勧告は、欧州、北米において法律や勧告などとして取り入れられています。放射線審議会の平成15年10月付けの報告書「自然放射性物質の規制免除について」において、「住居等におけるラドンについては、介入対象として対策レベルを今後検討することとなっているため、今回の検討対象から除く。」とあり、また、「ラドンについては、一般住居及び職場に関する調査の展開を待って、対策レベルを検討することが適切である。」と記載されています。

(※1) Bq/m3(ベクレル/立方メートル):空気中の単位体積当たりのラドンの放射能を表す単位です。

ラドンはどうしたら測れるの?

ラドン濃度の測定は、欧米と同じ仕組みのラドン測定器を用いて行われました。

ラドン濃度の調査は、世界的には1980年代から欧米の各国を中心に国や地方自治体により進められてきました。
それらの結果は、UNSCEARの報告書等に記載されており、世界の屋内の平均ラドン濃度は40Bq/m3と報告されています。
我が国においても、昭和60年(1985年)より屋内外や職場環境について実施されています。ラドン濃度の測定は、欧米と同じ仕組みのラドン測定器を用いて行われました。測定場所に置いた測定器に空気中のラドンが入り、中に置いてあるフィルムにラドンやその壊変生成物から放出されるアルファ線が当たると傷がつきます。このフィルムを化学処理して、傷の個数を数え、放射能濃度に換算します。

パッシブ型ラドン・トロン弁別測定器

UFO型測定器
UFO型

Radosys製測定器
Radosys製

我が国のラドン濃度はどうなの?

我が国の住居のラドン濃度は、平均値が15.5 Bq/m3、世界の住居のラドン濃度は、平均値が40Bq/m3と、我が国のラドン濃度が低いです。

我が国のラドン濃度調査は、昭和60年から始まり平成14年までに住居、職場や屋外で実施されました。これらの調査によると、住居のラドン濃度は、3.1Bq/m3から208Bq/m3の範囲にあり、平均値は15.5Bq/m3でした。UNSCEAR2000年報告書によると、世界の住居のラドン濃度の最大値は8万5千Bq/m3で、平均値は40Bq/m3となっています。我が国のラドン濃度が低いのは、家屋構造が異なっていることや風通しの良い木造家屋が多いためと考えられています。

一般環境の放射能調査は、どのような試料を対象に、どこの機関が行っているの?

一般環境の放射能調査は、原子力規制庁Secretariat of the Nuclear Regulation Authority(NRA)を中心に関係省庁や47都道府県などで実施しています。

一般環境の放射能調査は、原子力規制庁Secretariat of the Nuclear Regulation Authority(NRA)を中心に関係省庁や47都道府県などで実施しています。
原子力規制庁Secretariat of the Nuclear Regulation Authority(NRA)では、全国47都道府県の協力を得て、雨水、土壌、精米、野菜、牛乳や日常食などの環境試料について、ストロンチウム90やセシウム137などの分析を行っています。
関係省庁などは、それぞれの特徴ある専門分野での調査を実施しています。
例えば、環境省は離島における空間放射線量率を、防衛庁は高空の大気浮遊じんを、水産庁は海産生物を、気象庁は大気浮遊じんや海水を、海上保安庁は海底土などを調査しています。
これとは別に、米国の原子力艦が横須賀港、佐世保港、沖縄の金武中城港への寄港に係る調査として、原子力規制庁Secretariat of the Nuclear Regulation Authority(NRA)が水産庁、海上保安庁、横須賀市、佐世保市や沖縄県の協力を得て、 空間放射線量率や海水中の放射線計数率を測定するとともに、出港時の海水と海底土などを採取し、分析を行っています。
これらの調査結果は、本ウェブサイトの「環境放射線データベース」で確認することができます。さらに、そのデータを用いて経年変化図などの図表を作成することもできます。

環境放射能調査研究成果論文抄録集を見る

原子力施設の事故時などの放射能調査は、どのような体制で行っているの?

地方公共団体が緊急時のモニタリングを実施、原子力規制庁Secretariat of the Nuclear Regulation Authority(NRA)などが緊急時のモニタリングを支援します。

国内の原子力施設において異常事態が発生した場合は、地方公共団体が緊急時のモニタリングを実施し、原子力規制庁Secretariat of the Nuclear Regulation Authority(NRA)などが緊急時のモニタリングを支援することになっています。さらに、国外で発生した原子力関係の事故などに関する我が国への影響調査などは、内閣に設置されている「放射能対策連絡会議」において対応することになっています。

本Q&Aを作成するに当たり、下記の出版物を参考にさせて頂きました。

(参考図書)
  • 原子力災害対策指針:原子力規制委員会
  • 平常時モニタリングについて(原子力災害対策指針補足参考資料):原子力規制庁監視情報課
  • 緊急時モニタリングについて(原子力災害対策指針補足参考資料):原子力規制庁監視情報課
  • 原子力ポケットブック:日本原子力産業会議
  • 核化学と放射化学:齋藤信房ら共訳 丸善
  • 基礎無機化学:J,D,LEE 著、浜口博 訳 東京化学同人
  • 放射線計測の理論と演習:ニコラス ツルファニディス 著 阪井英次 訳 現代工学社
  • 放射線データブック:村上悠紀雄ら 編集 地人書館